1-8. 記憶をデザインする
練習に取り組む子どもたちが、次の機会にも「スクールに参加したい」と心から感じてくれるようにするため、彼らのモチベーションを次にどうつなげるのかが大きな課題だった。
経験上、とにかくスクールの最後に「楽しかった!」と声に出してくれた子どもたちは、リピーターとなってくれることが多かったため、スクールの最後は楽しく感じてもらえるようにとプログラムの構成に工夫を続けてきた。
そのひとつに、スクールの最後にみんなで楽しむゲームを用意することがある。
遅のり競争や、障害物タイムトライアルなども、記録の如何にかかわらず、子どもたちが熱狂して楽しんだ記憶となるコンテンツとなる。
最近では、「みんなで走る」というプログラムを最後に体験させることが多い。
そもそも、自転車を練習する最大の目的は公道にサイクリングに行くことである。この「みんなで走る」というプログラムは、複数人数でのサイクリングに出発する前の練習としてはじめたものだったが、実用的な要素と、コミュニケーション能力の必要性を体感させ、その能力を向上させるのに、かなり効果的なプログラムではないかと注目し、様々な工夫を重ね、今の形になってきた。
このプログラムの目的と最終的なゴールは、いわずもがな子どもたちのサイクリング中での安全確保のため、他の自転車や交通状況に配慮しながら走る技術を向上させることにある。
コースは、公道でなく、安全が確保された場所で用意し、まずは実際に公道走行の状況としてサイクリングで行う一列走行をさせる。
そのあと、2列、3列と横並びの人数を増やして、場合によっては5列くらいに増やすこともある。
集団の中は密集してくるため、列を保ちながら走る難易度はあがっていくが、子どもたちは、その挑戦に興奮してくる。
そこまでできたら、今度は走りながら列の数を変えていく指示を出す。
子どもたちは、誰が前に行くのか、後ろに下がるのかを大声を出して互いに調整していく。
このプログラムの成果はすごく、最初は一列走行もままならなかった子どもたちが、わずか20分足らずで見事に集団内での車間距離やスピードの調整をうまく行えるようになり、走りながら列の数を変更できるようになる。
そこまでの技術がついた子どもたちに、改めて一列走行に戻るように指示すると、見事なまでの一列走行を見せてくれる。
走りながら周りをよく見て声を出していく。
これが交通社会における、社会性の具現化である。コミュニケーションが可能になった子どもたちは、大人でも難しい技術の習得が可能になる。
子どもたちに、一度難易度の高い状況を経験したあと難易度を下げることで、それまでの技術レベルが格段にあがり達成感を得ることになる一つの例と言える。
終わりよければ、すべてよし。
だらだらとスクールを行うのではなく、各回に、例えば起承転結のように、印象的な展開をつくるのも一つの工夫だ。
練習の強度は「山型」にする
- ずっと難しいと心が折れる。ずっと簡単だと飽きる。理想は、「導入(安心)」→「ピーク(挑戦)」→「エンディング(達成感)」の流れ。
最後は必ず「成功」で終わらせる
- デンマークのスポーツ教育(25-50-25の法則)や、行動経済学の「ピーク・エンドの法則」にあるように、人間の記憶は「去り際」で決まる。難しい挑戦(ピーク)の後は、あえて少し簡単なゲームや、全員が笑顔になれる「みんなで走る」などで締めくくる。
「あー難しかった」ではなく、「あー楽しかった!また来たい!」と言わせて家に帰すことこそが、継続(また来てもらうこと)への最大の戦略である。
理論的裏付け:ピーク・エンドの法則(Peak-End Rule / Kahneman)
経験の「快・不快」の記憶は、その持続時間ではなく、ピーク時と終了時の感情によって決定される。
ウィーラースクールのプログラム構成は、この法則を満たすことが必要:
- 導入(25%) : 基本で安心させる。
- 中盤(50%): 難易度を上げて「挑発」し、ピーク(挑戦・興奮)を作る。
- 終盤(25%): 難易度を下げて「できた!楽しかった!」というエンド(成功体験)で終わる。
「終わり良ければすべて良し」ということわざは、脳科学的にも正しい。
最後に「失敗」や「叱責」で終わると、たとえ中盤が楽しくても、脳は「今日は嫌な練習だった」と記憶してしまう。
逆に、最後が笑顔なら「また来たい!」という記憶として定着する。
blackynakajima 2026.2.12 update
