指導要領

はじめに

2.自転車について日本の社会的状況

自転車についての教育を進めるにあたり、まずは現在、自転車がおかれている社会状況を整理し理解しよう。

そもそも、なぜ普段の生活の質を向上するための、スポーツや余暇での自転車利用といった、市民レベルでの「文化としての活用」の理解が進まないのか。また、自転車を有効な交通手段として位置づけた行政レベルでの整備などが追いつかないのか。それは、自転車=単に「便利で安価な足」という認識だけで止まってしまっているからではなかろうか。

言わずもがな自転車は便利で快適な乗りものである。それだけでなく、健康増進や環境負荷の低減、あるいは人との繋がりなど、日々の生活を豊かにしてくれる「未来の乗りもの」だ。これに関しては、実際に自転車を愛好しているサイクリストからの異論はないだろう。

日本において自転車を日常の活動や社会に有効なツールとして愛用している人口は、北欧などの自転車先進国からするとまだ少ない。保有台数こそ国民2人に1台程度(約6,000万台前後)と世界屈指の「自転車大国」であるにもかかわらず、そのポテンシャルを十分に活かしきれていないのが現状だ。

さて交通事故に関しては、警察庁の統計によると、2023年(令和5年)の自転車関連事故件数は約72,000件で推移している。ピーク時(2004年頃)の約18万件と比較すれば大幅に減少しているものの、近年は減少幅が横ばい、あるいは微増の傾向にあり、全交通事故に占める自転車事故の割合(構成率)は高まっている。 また、自転車乗用中の死者数は年間300人台で推移しており、死傷者の多くにおいて法令違反(安全不確認など)が認められるというデータもある。

こうした状況を受け、社会のルールも大きく変わりつつある。 2023年4月からは全ての自転車利用者に対し「ヘルメット着用の努力義務」が課され、2024年11月には道路交通法が改正され、「ながらスマホ」や「酒気帯び運転」に対する罰則が強化された。 これは、自転車が単なる「気軽な乗りもの」から、クルマと同様に「責任ある車両」として社会的に認識され始めた証左でもある。

電動アシスト自転車やシェアサイクルの普及により、自転車の利便性はますます高まっている。だからこそ、ハード(車体や環境)の進化に見合った、ソフト(乗り手の意識とマナー)の成熟が、今まさに求められているのである。

はじめに