指導要領

第一章 基本的な考え方編

1-9. (番外編)ヨーロッパの自転車教育

2018年8月末から9月頭にかけてデンマークとベルギーで取材したレポート
取材協力:橋川 健氏、高田ケラー有子氏

競技者の底辺拡大を目指す Kingdom of Belgium

2018.8.30 Brugge

公道でのウォーミングアップ走行が約1時間。距離にして30キロとは驚き

ウィーラースクールの源流といえば、やはりベルギーフランドル地方のウィーラースクール。
自転車競技大国として名高く、多くの世界チャンピオンを生み出した国だからこそ、よほどの強化プログラムがあるのだろうかと思うのだが、実際はそうでもない。むしろ幼少期から強化を行わないようにしている。
視察をしたその日は、ブルージュ(Brugge)の市内の子どもたち向けに、夏休み総合スポーツ体験を行う日であった。
多くの子どもたちがスポーツクラブに集い、そこでいろいろなスポーツを体験していく中の一つにウィーラースクールが行われていた。
その施設には陸上トラックの他に、自転車のトラックも併設されており、子どもたちは午前午後に分けて、様々なスポーツを体験する。
自転車専任の講師が二名、自転車トラックの横にある倉庫には、だれでもレンタルできるロードレーサーが数十台用意されている。
午後からの一回目では、比較的ロードレーサーに慣れた15名ほどの少年たちが本格的な自転車の練習を行う。
まず説明を聞いてから実際に公道へ。時間にして約1時間。距離は簡単に約30キロも走るから驚きである。
ベルギーでは公道上での自転車の地位は非常に高く、子どもたちが二列縦隊で走るため追い越しができない場合でも、車は黙って後ろで待っている。子どもたちが公道練習を容易に行える社会環境が整備されている。

はじめてのロードレーサー体験を誰もができる環境がそこにある素晴らしさ

公道走行が終わったらトラックを使って周回からスプリントまで、本格的な練習が続く。
午後の二番目の回は、さらに初心者の体験となり、これは公道には出ずトラックのみでの練習となる。

初心者の子たちに機材の使い方を説明する

この国のスクールで目指しているのは、まずは「安全」、そして「楽しみ」、最後に「フェアプレイ」。
競技も早くからは、無理にさせないようにするという。12歳までは、「楽しい」を軸にしたスクールを展開する。
それはあまり早くから競技にのめり込むと、せっかく才能があっても燃え尽きてしまい競技をやめていく傾向が強いからだという。
だからこそ、小さい間は楽しみを中心にプログラムを組むそうだ。

「夢を追いかけてほしい」
長年子どもたちを育てているインストラクターは、そう語った。

競技者の底辺を拡大するためにも、楽しむことを第一に、あえて競技志向にならない

自転車を活用する市民を増やす Danmark

2018.9.4 Odense

楽しみながら自転車がうまくなるプログラムがいくつも揃っている

デンマークは言わずとしれた、市民の自転車活用を推進する先進国である。国民の通勤通学の大半を自転車に置き換えるべく、様々な行政的施策が取り入れられている。その最前線とも言うべき活動が、子どもたちに向けた自転車教育の取り組みである。
国内の小学校の多くが授業の一環で自転車教室を行う。
この日は、オーデンセ(Odense)の小学校で行われていた8歳〜9歳への自転車教室を視察した。
このスクールは、デンマークのサイクリング協会が作成したプログラムメソッドを軸に、市から雇われたインストラクターが小学校を訪れ、子どもたちに安全な乗り方の基礎となる技術指導を行う。指導を行う彼らはスポーツ科学などの教育を受けた専門家である。(必ずしもスポーツサイクリストではない)

子どもたちは段階を踏んで自転車の練習をする。この年令はまずはいろいろな複合的な動きを練習

安全に自転車に乗るために、自転車を余裕を持って自由に扱えるために必要なのは、慣れである。彼らが使用するテキストには、遊びの中でその技術を学ぶためのアイデアが多数用意されている。子どもたちは、楽しみながら操作スキルを向上させていく。笑顔のたえない教室であった。
「自転車に親しむ市民を増やすために教室を開催するのだ」と言う彼らの言動から、デンマークという国が、そうした市民を増やすことが国にとって良いことであるという大きな方針が、市民に浸透していることをうかがうことができた。

自転車を活用する市民を増やしたいと語るインストラクター
全国的に学校で行われるABCサイクリングコンテスト。自転車活用が学校単位で進められている
第一章 基本的な考え方編